山田美紀

山田美紀

 私は人殺しの写真を持っている。去年の4月、本多劇場の下手袖で撮った写真だ。確か、マチネとソワレの間の休憩時間だったと思う。舞台の資料写真を撮った後、袖や舞台にいた女優陣に「面白写真撮らせて~」などと言いながらデジカメを向けると、峯村さんや新谷はそれはそれは面白キュートな表情をしてくれた。舞台上でスタンバイ作業をしていたスタッフ達も「楽しげなひととき」風にカメラに収まった。そんな中に人殺しの写真は、まぎれてあった。
 松永さんとは、私がナイロンの演出助手をするようになって出会い、その後G2さんの演助をする現場でも度々ご一緒させていただいていて、なんだかんだで私は「松永率」の高い生活をさせていただいている。今年も「FROZEN BEACH」が終わった後、秋にはAGAPEstoreの「BIG BIZ」で一緒だし。なので、私は標準語を喋る松永さんも関西弁で喋る松永さんも知っている。「松永」と呼ばれたり、「レイチェル」と呼ばれたりしているのも見ている。落語家として舞台に立たれている姿も拝見した。「王立寄席」はわざわざ大阪まで新幹線で駆けつけて見に行ってしまった。芝居を見るために大阪日帰りをしたのは後にも先にもそれだけです。……いやだわ、これじゃ、まるでファンみたい。
 私は「夏の松永さん」が好きだったりする。夏、稽古している時、取材などがあると松永さんは「避暑地のお嬢さん」みたいな格好で現れる。ちょっと、違うか。「避暑地で療養中」「サナトリウムで療養中」のお嬢さん。こう書くと弱々しい感じがするが、なんかそんな風情があるのだ。うっかり、つばの広い白い帽子をかぶらせたくなる風情。南国の海よりも、上高地の山々が似合っちゃうような風情。…行ったことないけど、上高地。
 そんな、何か「守ってあげたい」的な気持ちを起こさせるわりに、松永さんは口を開くと、さりげな~く毒霧を吐いたりする。そのさりげなさが、タチ悪い。トゲがないように見えたサボテンに触って、な~んかチクチクすると思って手を見ると、細かいトゲがいっぱい刺さってたみたいなタチ悪さ。すみません、わかりにくくて。
 あと、私が知っている事といえば、案外稽古場では大人しいこと、セリフ覚えがとても早いこと、ナイロンでは稽古の合間にも黙々と制作仕事も片づけていること、お酢が大好きなこと、「ダンスやアクションは苦手」といいつつ一生懸命稽古すること、端から見ると「なんで?」と思うことがツボにはまり、いつまでも大笑いしていること、チャイナ風な洋服が好きなこと、呑んでも乱れないこと、そしていつまでも飲み屋にいること、でも呑み過ぎると「眠い~」とか言って可愛くなっちゃうこと、そのわりには私が誘うと「いや、今日は…」とか言って、とっとと帰っちゃうこと、ぐらいだろうか。
 結局、私の中の「松永さん」はすごく曖昧な存在なのだろう。知ろうとすればするほど、ひょいと軽くかわされちゃう感じだし。だから私はいつも松永さんのその日の「風情」でその日の松永さんを判断しているような気がする。今日はどんな風情で稽古場に現れるか、そしてどんな芝居をするのか。思わずそんな興味を抱かされてしまう。わかった。これから私は松永さんを「風情女優」と呼ぼう。他には誰も呼ばないと思うけど。
 今、新宿紀伊國屋ホールで上演中の「FROZEN BEACH」でも、各シーンで20歳、28歳、36歳の女の「風情」炸裂中です。どんな風情かは、見てのお楽しみということで。
 冒頭に書いた人殺し写真は、もちろん松永さんのことだ。普通女優は、というか女の子は、カメラ向けられた時、そんな今にも人を殺しそうな目つきで睨まないでしょう。うかつなのか確信犯なのかわからないけど、私はその写真が大好きです。

マツナガ

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